徒然畑

徒然なるままに。

【No11】ヘリオトロープ 「廃妄水葬」

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昨日に引き続き…
ヘリオトロープさんの写真集の魅力を分析。
もう一冊のこれ、昨日はノスタルジックな路地裏の世界を描写した一冊でしたが
今度は、幻想的な廃墟の世界を描写した写真集です。
魅力の原因のなかには、いくつか昨日と同様の理由があるため、
それは割愛して、純粋にこの本の魅力を綴ろうと思います。

⑴世界観を構築するための重要なモチーフ:クラゲ
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この本のテーマは、「海の中の廃墟」
ちょっと考えてみてください。
いざこのテーマを表現しようとした時に、どうすればその世界観の魅力を表現できるでしょうか。
ただ海の色を廃墟の写真にオーバーレイするだけ?
廃墟で魚が泳いでいるように合成する?
もちろんそれも一つの手段でしょう。答えはないのです。
この本は、その答えとしてクラゲを素材に使ったのです。
昨日の記事で話したように、ヘリオトロープさんの路地裏や廃墟写真は
彩度の高い色を強めに抽出し、路地裏や廃墟の持つ古びた雰囲気を魅力的に見せることを得意としています。
そのため、今回も海の色をベースにした上で、鮮やかな色合いを強めに出しています。
そして、透明度を下げたクラゲの揺蕩う姿を乗せたことによって、
写真の色合いの緩和と世界観の強調をさせるのに成功しています。
クラゲの体は基本的に透明なので、
被写体の邪魔をせず、かつ色合いの調和を保つには、ちょうどいいオブジェなのです。

作り出す写真の特徴や強み、不足な点等を把握した上で、
世界観を作り出すための適切な表現方法を導き出せているか。
それは、あるテーマを言葉で説明しなくとも表現することに成功している作品に共通していることだと思います。
それと同時に、非日常的なファンタジーの世界を描く際に当たって
重要な要素ともなりえるのでしょう。

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ちょっと、廃墟の魅力についての話。
廃墟に惹かれる理由、
その二つは昨日キーワードとしてあげた「錆び」と「人間と同じく歳を重ねる様」があるのは明白です。
で、廃墟独特の美学。それは、温故知新。
路地裏にも当てはまるものがあります。ですが、これはすべての廃墟に共通するもの。
今は亡き、自分の知らない時代の世界がそこにはあるということです。
そこにかつてどんな暮らしやどんな営みが行われていたかぱっと見ただけではわからない、
だけど確かに何かしらの営みがあったと、そう感じさせる建物たち。
そこに好奇心や切なさを見出してしまう感性は一定数存在するのです。
そのため、この写真集の中で、電車、実験器具、ベッドなどなど、
かつて誰かの手によって営みの一部として使われていたものたちがメインとして扱われているのは
その感性の存在を如実に語っているとも言えます。

廃墟が好き、という人が一定の割合で存在するあたり
人間の感性の多様性と可能性は広いなあと感じさせます。
こういう風に、絵画、写真、 建造物に問わず、
様々なテイスト作品がこの世に存在しているあたり、
作品を作り出すこと、作品を分析することは
人間の感性の多様性や可能性を追求していくことと同じことのように思えます。

この2日は、似たような題材の分析をしたため、
明日は少し毛色の違ったものを探求してみたいと思います。